ひとそれぞれの祈りがあり、
それはとても固有的で不可侵なものである。
「物語」はそれらを超えて人の心に届く、最高のメディア。
私にとっての「祈り」とは、待つことかもしれない。
曲を書くのは、まっさらな五線紙に、手で音符をひとつひとつ書き込んでいく仕事だ。いつ、いかなるときでもそうである。5分間の童謡でも、3時間のオペラでも変わりない。このパソコン、インターネット全盛の時代にあって、補助的にハイテクの助けを借りることはあっても、作曲家はいまだにアナログの極みのような作業に日夜、いそしんでいるのである。 とはいえ、五線紙を前に置いたからといって、すぐに曲が書けるわけではない。そこから、自分に何かが降りてくるまで、延々と待つのである。特定の信仰を持たない私にとって、それはまさに祈りだ。目に見えない何かに懸命に向き合い、待ち続けること。そんな愚直な、形のない祈りの積み重ねこそが、私を作曲家たらしめてくれるのだと思っている。
出典:「新しい祈りのかたち」(発行 アルテマイスター)