ひとそれぞれの祈りがあり、
それはとても固有的で不可侵なものである。
「物語」はそれらを超えて人の心に届く、最高のメディア。
「祈り」とは
見えていないもの、見えないものに対する期待。
予測できないもの、自分の力ではどうしようもないものに対する不安の回避手段。
表象的には表れていないものを形にするメディア。
毎年祈る時がある。
5月の頃になると、土をつくって朝顔の種を植える。
昨年育てた朝顔から採れた種である。「今年も育ってくれ」。そんな祈りを昨年もこの時期にしたことを思い出す。昨年植えた種はそのまた前の年に採れた朝顔の種である。そんなことを5年続けてきた。続ければ続けるほど、その祈りは強くなる。
秋になって種を採る時、一粒たりと手のひらから落とすまいと手のひらがハスの葉のようになる。この一粒の中には今年の思い出があり、その前の記憶もあり、そのまた前の日々があるからこそ、ここにある。
そんな種を土に埋めるときに少し不安になる。疑う、この小さな種の中に本当に成長する力があるのだろうか?こいつは生きているのだろうか?土の中に埋めてしまえば種は見えなくなる。植える前と何も変わらない。けれども・・・だから・・祈る。
出典:「新しい祈りのかたち」(発行 アルテマイスター)