ひとそれぞれの祈りがあり、
それはとても固有的で不可侵なものである。
「物語」はそれらを超えて人の心に届く、最高のメディア。
ファッションモデルとして世界的に活躍した故・山口小夜子さんの「偲ぶ会」が行われたのは残暑が遠ざかった九月だった。五十余年の早すぎる旅立ちに少なからず衝撃を受けた。偲ぶ会案内状の活字を目で追いながら、「なぜ」「どうして」と思いが募り、いつしか部屋の片隅で冥福を祈っている自分自身が居た。
白川静著「常用字解」によると、祈りとは神に対する誓いの言葉を意味する言を添えた字形で、のちすべてのことについて「いのる」「もとめる」の意味に使われるようになった、という。雨乞いの祈雨、祈願、神仏に願いが叶うよう祈る祈祷、農産物の豊作を祈る祈年、心から祈る祈念などの記載がある。
人間は、強くて弱い。困難や苦悩に直面すると、何かにすがりたい思いにかられる。ひたすら祈ることで、心の安寧を求める。人生は何が起こるか判らない。祈りは心の表現であり、姿であり、形である。
出典:「新しい祈りのかたち」(発行 アルテマイスター)