祈り×物語

ひとそれぞれの祈りがあり、
それはとても固有的で不可侵なものである。
「物語」はそれらを超えて人の心に届く、最高のメディア。

息をするように祈る、祈るように息をする、京都府立医科大学名誉教授 棚次正和

「祈り」から連想するのは、「お願い」や現実を変えない「心の中の出来事」かもしれない。この祈りに関する先入観を、まず捨て去る必要がある。日本語「いのり」の語源は、「生(い)+宣(の)り」、つまり「いのちの宣言」である。いのちを根源から宣り出すこと、いのちを生き生きと生きること、それが「いのり」本来の意味である。人間は無力だから、神仏に救いを求めて祈るのではなく、自然本性として祈るのである。鳥が大空を舞い、魚が水中を泳ぐのが本能によるように、人間には生きとし生けるものの幸せを祈らずにはいられない自然本性がある。「生きること」の基本である「息をすること」を自覚することが、「いのり」である。それゆえ、息をするように祈る、祈るように息をする。祈りを忘れた人間は、歌を忘れたカナリアよりもずっと悲惨である。

じつは、祈りほど現実世界を変えるのに有効な行為はない。いのちの根源から湧き上がる「いのり」は、宇宙万象の大調和に向けて響きわたるからである。祈りは目的達成の手段ではなく、目的達成そのものである。たとえば、平和や感謝の祈りならば、それ自体がすでに平和や感謝の実現なのだ。祈りの治癒効果を調べる科学的研究は、欧米では枚挙に暇がない。日本でも、村上和雄先生をリーダーに「祈りと遺伝子」の研究が始まっている。日常生活のほんの小さな祈りにも、全世界を変容させる大きな原動力が秘められていることに着目したこのプロジェクトは、まさに新時代を先取りした企画と言えよう。

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